親と子供の心が離れる~児童虐待の問題を抱えて~

児童虐待やイジメ、自殺など子供に関する様々な問題がある今、大人、特に親がどう子供に接していくかが問われている。

母親のうしろに父親の問題が…

   

親子関係

「父親の権威が失墜しか、もう一度㈲復しなおさなければならない」という意見をよく耳にする。

それを聞いてトつも思うことは、時代が変ったから、それに伴って、父親というものもむかしと同じではなくなったわけであって、時代そのものを元へ戻せない以上、父親も元の父親の姿に戻れるものではないだろう、ということである。

歴史は繰り返すという。新しいものが起こると、やがてその反動がきて、似たような状況が戻ってくることもあるということを言っているのであるが、全く同じことが二度あるという意味ではないはずだ。

わが国の変りようを見てみるとヽ戦後三十年の間にヽ生活様式もヽ人間の移動や交流の度合も、身分や階層の判然としなくなったその程度も、学校教育のひろがりも、そしてそれらの基本にある産業や経済のあり方も、すべてこれまでのどの時代にも見られない形で、変った。

わが国だけが変ったのではなくて、世界全体が変った。あらゆる変化に伴って、人間の姿も変えられていくのであって、その一つに、父親0権威の失墜ということも含まれている。そして、それはこの何十年かの間の重要な世の中の変化の一つであることに間違いはないだろう。

西ドイツのA・ミッチャーリヒという精神分析学者が「父親なき社会」(小見山実訳・新泉社)を書いたのは一九六三年だが、社会の構造自体が父親の権威を基礎にして成立していた時代はすぎて、もはや久しいのであり、社会の構造そのものを問題にせずに、父親の位置づけだけを旧に復するわけにはいかない。

家庭の中で父親だけが特別な権威を付与される時代は終ったのである。もし権威、があるとすれば、ひとりの男性としての生活経験にふさわしい人間ひとりの尊厳かおるだけである。

社会の体制につながった権威のワク組みは崩れてしまっているのに、なおかついまも、父だけが特別な権威を示そうとすれば、少々それは時代錯誤で茶番めいてくる。

逆に言えば、家族の中では生活経験が上で、体力的にも危急の際に妓も力が発揮でき、人生上の判断や見通しが一番深く広く決然たるものであればこそ、それによって、家族のリーダーシップがとれるわけで、実質のリーダーであることが要求されているのは、いまもむかしも変りない。

そのリーダーヘの家族全員の信頼は、むかしは、ワク組みとして保障され、カラいばりでも容認された。これからは、カラいばりでは通用しない。リーダーシとフを発揮するべきならば、家族員全体の承認や敬愛を得なければならず、それらを得るためには、人格対等の、柔軟な人間関係への参加のしかたを、まず修得しなければならないのではないか。

子どもの問題で、母親が変らねばならないと指摘すると、私か変るには、父親が変ってくれぬばかりません、と母親が言う。父親に会うと、子どものことで、父親たる自分が、いまさら何を変えよというのか、と全く嘸然たる様子でとりつくしまがない。自分がなにかやり方を変えることは、父親の権威を地におとすことだといきまき、そのあわてようや力みかえりようは、ともすれば、男のヒステリーでしかなく、最近の目ざとい子ども達は、その姿を見て、いっそ端的に、父親の権威が実質ととのっていないことをさとってしまうというわけである。

家族の中のひとりの問題について、みんなが真正面から率直に論じ合い、問題の所在を明らかにしようとするならば、意外や、誰が問題についての加宍者で、誰が被害者であるか、思いがけぬ方向に議論が発展する。その際、父親ひとりが、かたくなに父親としての権威を主張しておさまっていることは許されない。

みんなが話し合えるには、父親が話し合えねばならないのであって、父親はそこの点をこそ十分に認識して、自分が思いがげぬ被害者とみなされようと加古者とみなさ九ようと、議論を問答無用としてしり半けてしまってはならないのである。

父親自身が、家族みんなとの話し合いの中で、意外な自己があらわれ出すのを発見することもあろう。意外なあまり、それを自己とは認め難いような、そんな自分と衝撃的に出会う。そのことによって、家族みんなとのつながりの契機をより多く獲司していくべきなのだ。そこではじめて、父親は家族のリーダーとして、生きた機能を発抑する。いずれにしても、いまになってようやく、古い時代と新しい時代の過渡期を、あぶなげに渡っていかねばならぬ時期に入ったのだという気がする。

 - 親と子供の問題

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