親と子供の心が離れる~児童虐待の問題を抱えて~

児童虐待やイジメ、自殺など子供に関する様々な問題がある今、大人、特に親がどう子供に接していくかが問われている。

子供が脆すぎるあまりのてごわさ

   

ちいさいひと

ガールフレンドがつくれない

ちょっと年配のご夫婦。自分達の息子のことで相談にきたとのこと。
「わしはついてきてやったのだから、おまえがお話しなさい」と父親の方は脇に座る。
「ほんとに困ったことなのですの」と、母親の方が肩をすぼませて語り出す。

娘と息子の、子どもは二人。娘は中学二年で、いまのところ問題はない。息子は大学一年生。
浪人もせずに、目ざす大学に入ってくれたのでほんとうにありかたいのですが、とのことで、それじゃあ言うことはないじゃありませんかと、こちらもとまどっていると、「いや、大学に入ってからのことなんです。ほんとうに私も思い悩んでしまいまして……」。その先が続かず、言葉がにごる。

入学式のあと、何日目か。浮かぬ顔をして、息子、が、「オレ、大学続かなしかも知れないよ、お母さん」と言ったという。

びっくりして、どうしてか、なにが問題かとたずねたが、それ以上、どうとも言わないから分らなかった。

一ヵ月ほどして、「オレはあかん、あかん」と頭をかかえ込んでいる。

意を決したように、ある日、母親に、頼みがある、と息子が言ったという。

「ぼくは大学へ入るためには勉強するしかないと思って、勉強のことばかりが頭にあった。大学へ入ってみると、みんなよく遊ぶ。それも、ガールフレンドを連れて。ガールフレンドがいなかったら話の中にさえ入れないんや。どうしてぼくにぱガールフレンドができんのやろ。だいいち、どうしてつくるか。それさえ分らん。お母さん、子どもがこれほど悩んでいるのや。頼むから、ガールフレンドさがしてきて。頼む。さがし出せんかったら、せめて、ガールフレンドのさ、がし方をどこかで教えてもらってきて。頼む。な。頼む。ガールフレンドができなかったら、ぼく、学校やめんならんかも知れない。カッコが悪うていけるものか。な、頼む」

それからは毎日、どうした、考えてくれたのか、見つけてきたか、子どもがこれほど悩んでいるのに、親は平気か、オレの身にもなってくれ、とやいやい責めたてられて、私、辛くて辛くて、と母親の声がつまった。

実は、これはたった一つの特例ではなくて、これとほとんど同じ相談が、私のところに数例あった。親は、子どものガールフレンドまでさがしまわらねばならなくなったのか。

「それで、お父さんは、どうしてらっしやるので……」と、話を父親に向けると、いままで嘸然として黙っていた父親はこう言う。

「どうもできないんスよ。これも(と妻を指して)息子も、父親のいうことなんか、まったく聞きゃあせんものでねえ。なにか言うと、時代が違う、話にならない、とバカにするんだもので。ええわい、知るもんかと思って、子どものことはこれに任せてきたんです」

父親は心理的にしめだされている

「で、お父さんご自身ぱどう思ってらっしやるんですかなあ」と、私はもうI度たずねた。

「だいたい、ガールフレンドなんて。私か息子の年齢のときは、徴用にとられて、こき使われておりました。女友達どころの騒ぎやない。せっかく大学に入ったと思って安心したら、息子はバカなことを言いよって……」

話にもなんにもならん、といった風情である。母親は母親で、「こういう調子ですから、父親は全くあてにできないのです。今日は、会社の方が休みなものですから、ちゃんと相談にいくからあんたついてきてくださいって、こうしてやってきたんです。

センセ、子どものガールフレンドはどうやって見つけるんでしょうか。子ども自身が見つける方法だけでも聞いて帰って、子どもに教えてやりたいと思います。どうぞ教えてください。これがもうすこし年をとって、結婚のお見合の相手とてもいうんでしたら、よそ様への頼みようも分らないことはないのですがねえ」と、母親は嘆息をついている。

「しかしねえ」と私は話す。「ガールフレンドのことを考える前に、お子さんは、男の子同士のつき合いがうまくできていない。そのことが問題ですよ。高校時代から、友達とはうまくやれてたんでしょうかねえ」

すると母親は、「そうですねえ、男の子の友達って、あんまりなかったですね。でも、毎日々々勉強々々だから、子ども自身が友達をほしいとも言ってませんでしたよ。男友達はいいんです。いまさかさなきゃならないのはガールフレソドなのですよ、センセ」

仕事場では何人かの部下をもっているという、体格のよい、もの分りのよさそうな父親なのに、だからこそ、母親かよ七へ相談にいくといえばついてきてもやっているのだろうが、家では、妻にも息子にもまるでリーダーシップを発揮できない様子。無力になった父親の見本を見る思いがする。

母親のせっぱつまったような話を、父親はじっと黙って聞いているのである。

また別の相談例なのだが、ある日、父親がひとりで来所した。娘が高校に入ったのだ、か、入学以来だんだん機嫌が悪くなって、ふさぎ込んで、五月の連休以後、時々頭が痛いといって起きてこず、学校を休むようになった。

母親はなんとか励ましていかせようと躍起になっている。どうも学校を休む日の前日は、娘が自分から母親に、妙な些細なことで批判したり、文句を言って、それに対し母親が何か言う。ああ言やこう言うで、母と娘の口争い。聞くにしのびなくて、父親が大声をあげて中に入ると、娘は、いらんところに父親が割って入ったから話はだいなしになったと、父親のいないところで母親を責めぬくので、母親もまた父親に「あんたが無茶を言うから、そのとばっちりが私にあたる」といって、夫に愚痴をこぼすのだそうである。娘は、「気分がめちゃめちゃだから、あした学校にいけそうもない」と言って、夜ふけまでいらだっている。

ある日、父親が家に帰ると、母親はこう言った。「申し訳ないけれど、あなた、今夜から食事を応接間へもっていって食べてください。あの子が、お父さんがいたら気分が悪くてご飯が食べられない、お父さんによそで食べてもらわないのだったら、私、ご飯は食べないからねっていうんです。いまご機嫌をそこねたら、あの子、ほんとうに学校をやめてしまいかねない。瀬戸際のところだから、分ってやって。お願い。応接間に運んでありますからね」

しかたがないから父親だけひとりで応接間で夕食をすます。何日目からか、妻が台所で、「あなた、これですよ」と言うので、自分でお盆を応接間へ運んでいって、食べるようになった。もう1ヵ月続いているが、この先どうしたらいいだろうか、とじうのが、父親からの相談の内容だったのである。

父親は心理的に家族からしめだされている。この例のような場合は、心理的どころか、体自体も物理的にしめだされているのである。

 - 親と子供の問題

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